Q0って、何する会社なんですか?

Q0設立の趣旨(林千晶・大松敦・奥森清喜・諏訪光洋)

2022年9月9日、新しい会社「株式会社Q0(キューゼロ、以下、Q0)」がスタートします。株式会社ハチハチ、株式会社日建設計、株式会社ロフトワーク、の3社によって設立されるこの企業の目的は、「地方と都市の新たな関係性をつくる」こと。発端は2021年4月、Q0を率いることになる林千晶のもとへ届いた1件のメールでした。

なぜ地方なのか?地方と都市のあるべき関係とは?など、林とともに、大松敦(日建設計 代表取締役社長)、奥森清喜(同取締役 常務執行役員)、諏訪光洋(ロフトワーク 代表取締役社長)が集まり、Q0が思い描く未来について語り合いました。

僕らの知らない世界へ出て行こう

林 : 日建設計は、なぜロフトワークとQ0を始めようと思ったんですか?

左:諏訪 光洋(Q0 取締役、株式会社ロフトワーク 代表取締役社長)/ 右:林 千晶(Q0 代表取締役社長、株式会社ハチハチ 代表取締役)

大松 : 2021年2月に林さんがモデレータをしてくれたウェビナー『ポストコロナにおける都市・地域の展望』(注1)がありましたよね。ちょうど私が社長に就任する時期でもあったんですが、何をやっていこうかと考えたとき、私自身が都市のことを長年やってきたということもあり、日建設計を「開いて」いくことが重要だと感じました。建築プロジェクトだと、登場人物は多くても役割が明確に決まっていますが、都市の仕事ではそうはいかない。誰がリーダーかなどとは関係なしに、フラットに議論をしないとまとまらない。もっと色々な分野の方々と活動をともにすることで、より価値の高い仕事を社会に提供できるんじゃないかと。
(注1:2021年2月開催。ポストコロナにおける都市・地域に求められる変革の方向性を発信する、日建設計とパシフィックコンサルタンツの共催イベント。)

大松 敦(株式会社日建設計 代表取締役社長)

奥森 : 今の話とも連動しますが、日建設計が初めてパブリックスペースに運営者として関わった渋谷区の北谷公園が2021年4月1日にオープンしました。まったく初めての経験で、準備を3年も4年もかけてようやく実を結んだ。その式典のときに、「運営管理、日建設計」と呼ばれたのが衝撃的だったんです。設計はたくさんやってきたけど、こんなに近い世界なのに深く関わることのなかった世界が広がっていたんだな、と改めて気付かされました。パブリックスペースに関して言うと、林さんにも審査員をしてもらった『都市のパブリックスペースデザインコンペ』(注2)を2015年から続けていて、僕らが普段考えていることとは全然違う視点が若い人たちから出てきていることも、「僕らの知らない世界へ出て行こう」という空気を生むきっかけになっていますよね。
(注2:日建設計が2015年より主催する、都市のパブリックスペースを再定義することをテーマとした国際アイデアコンペ。)

奥森 清喜(Q0 取締役、株式会社日建設計 取締役 常務執行役員)

こちらから声を聞きに行く会社を

日建設計を開き、知らない世界へ出て行こうと、2人が連絡したのが、ロフトワーク(当時)の林です。最初は「地域のためのオープンプラットフォームを作りたい」という相談だったそうですが、メールを受け取った2021年4月は、すでに林がロフトワークを退職することを決意していた時期でした。

林 : ロフトワークで私ができることはやったし、今後もロフトワークが続けてくれると思っています。ただ22年間経営していても、ロフトワークには声が聞こえてこないエリアがあると感じていました。例えば、2年前の中小企業庁との取り組みがあります。「デザイン経営」の力で中小企業を元気にしましょうという目的で、全国から募集して30社で実施するというプロジェクトでしたが、どうしても応募が来ないエリアの1つが東北地方だったんです。東北大学に相談したり色々したんだけど、やっぱり応募がなかった。違う価値観が存在するんだなと思いました。

諏訪 : 林千晶は4、5年前からずっと言っていたんですよ。東北地方もそうだけど、日本海側で何かしたいと。都市にいるとやっぱり現地からの声が聞こえづらいエリア。だからこそ、そういう地域と何かやりたいってね。

林 : 新幹線も、今は太平洋側を中心に走っていて、人口が多い都市も太平洋側に多いですよね。でも、ずっとそうだったかというとそうではなくて、時代によって中心となる地域が緩やかに変わっていく。それを考えると夢があるな、って。

大松 : 日本海側が豊かだったのは北前船の時代ですよね。私も両親が富山の出身で、日本海側には親近感があります。子供がしばらく新潟に住んでいた時期もあり、そこを拠点にして佐渡に行ったり、山形県の酒田に行ったりしました。アクセスの良い地域ではないにもかかわらず、毎度なんでこんなに豊かなんだろうって思わされました。大邸宅とか日本庭園とかがたくさん残っているんですよ。まだコロナ前でインバウンドの観光客もいて、首都圏の人より海外の人の方が知っているんだろうな、と。活用されていないものが、まだたくさん眠っていそうですね。

林 : そういう、都市にいては聞こえてこない声があるんですよね。だから、こちらから声を聞きに行く会社をつくろうと思ったんです(笑)。まず最初は、とにかく聞くこと。東京の当たり前が地方の当たり前じゃない。以前、ある地方自治体の建築プロジェクトを担当していたんだけど、私たちが提案した建築家が選ばれたのに基本計画だけで終わってしまって、設計からは地元でやります、と打ち切られちゃったんです。当然続けてもらえると思っていたので、会議やメールでのやり取り、修正への対応スピードなど普段のやりとりに相当、違和感があったんだなと反省しました。東京やグローバルでの考えをいきなり持ち込むのではない。そのことがすごく大切だと思っています。

生活者としての視点をリマインドする

まずは地方の声に耳を傾けること。だからQ0は基本方針として“Listen”(地域に足を運び、今まで聞こえなかった声に耳を傾け、問いかけ、対話をする)、“Design”(人・場・活動を巻き込み、継承される魅力的な地域をデザインする)、“Zero Energy”(エネルギー収支を考え、地球にやさしい施策を実施する)の3つを掲げています。

林 : この基本方針には私の思いが込められています。まず最初に、じっくり聞くこと。背景にある想いや慣習の違いを互いに理解することが大切だと感じています。次にデザインを持ってきたのは、Q0が人を中心にした企業であるということです。究極を言えばデザインというのは、一人ひとりがどう思うかということ。たとえばこのペットボトルでも、持ったときに自分がどう感じるかということが大事で、その1人の感じ方が集まってN人の感じ方になっていくのがデザインだと思う。ゼロエネルギーというのも、人が中心じゃないと意味がない。今の世代にとって環境のことは当然の課題で、エネルギー会社だけが考える問題ではない。自分たちの地域でエネルギーをどう創り、どう使うか。自分のいる地域、日本、そして地球を視野にいれて、健全なライフクオリティを手に入れるために、小さい一歩かもしれないけれどできることを考える。これはQ0の一番の理念です。

大松 : まさに生活者としての視点ですよね。東京で暮らしていると、生活者として自分の足で地面を踏んでいるとか、自分の手で自然に触れているというような感覚が得づらいんです。乖離している感じがある。本当は自分のなかに持っているはずなんだけど、都会で暮らしていると忘れてしまっていることがいっぱいある。むしろ地方の方が、もっと身近に自然にできると思うんですね。エネルギー消費量実質ゼロを達成した瑞浪北中学校(岐阜県瑞浪市)もそうです。一人ひとりの生徒が学校で使われているエネルギーを自分ごととして捉え、そしてそれが学校を出てからも続いていくことが大事。地方に行くとその感覚をリマインドできると感じている人は東京にもたくさんいるから、その人たちとプラットフォームをつくって、各自治体に実装していけたらと思う。

林 : 瑞浪北中学校の事例は、まさに生徒が中心になっていますよね。そういうことがやりたいですよね。東京と地方の違いはトイレ一つとってもそうで、Q0でプロジェクトを進めている秋田でも、汲み取り式トイレが多くて、流せない(笑)。水洗の方が文明的って思うかもしれないけど、私が考えているのは、流れはするけど地域のなかで循環する、みたいな。そういうことができたら、汲み取り式の方が逆に先を行っているということになるし、地方の方が先進的かもしれないですよね。

大松 : 私もオープンプラットフォームの対になるものとして考えていたのが、そういう地方でのサーキュラーエコノミーだったんですよね。林さんに相談をしていて、サーキュラーエコノミーの話題になったら林さんの目がキラッと光って「私もそれがやりたい!」って(笑)。

諏訪 : 少し脱線すると、今、安アパートの家賃が初任給よりも高いニューヨークみたいな都会でベンチャー企業を成功させようと思うと最初に十億とか集めて、数年内に何億と稼げるようになっていないといけない。それに比べると東京はまだのんびりしていて、2、3人でよっこいしょって始められるけど、これから東京も物価のたがが外れてくると、若い人たちが新しいことを始めるのは結構しんどいと思う。そういう意味でも、地方の方が新しいチャンスを生んでいるというのは世界的な潮流ですよね。

都市と地方の「形容詞」を見つけたい

「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的に発足したQ0は、現在すでに秋田県と富山県でプロジェクトを展開しています。地方だけでもない、都市だけでもない、その2つの新しい関係についての模索が始まっています。

林 : 私は「動脈と静脈」という言葉を使っているのですが、ロフトワークでやってきたことは東京や大阪・京都、札幌や広島といった都市からの発信、つまり動脈。それは華やかで力強い。でも動脈だけでは血は巡らないように、東北地方や北陸地方、あるいは山陰地方などで脈々と明日を見つめて活動が展開されている。動脈と静脈はどっちも必要なもの。また、Q0では主に地方のことをやるのですが、それは地方だけということではなくて、都市と地方のどんな新しい関係性がつくれるかということ。地方の暮らしって言うと、都市に住んでいる人は古臭いものと思いがち。でも東日本大震災やコロナ以降、そういう考え方に疑問が投げかけられ、移住している層も増えている。また、言い方の問題で、たとえば人口減少と聞くとネガティブに感じるけど、北欧型の人口動態に近づいていると聞くとちょっとポジティブ、みたいなね(笑)。今までの「都市の人が地方へ観光へ行って消費するだけ」というものとも違う、都市と地方の新しい関係を表せる適切な形容詞を見つけたいと思っています。

奥森 : 2月のウェビナーの後もオンライン討論会を連続で開催しましたが、タイトルについての議論もすごくしましたよね。「地方と都市の関係性を探る」というタイトルは、今のお話にもあったようにQ0に繋がっていくものだと思います。僕は特に8割近くの仕事が東京で、都市のなかから都市を見る、あるいは世界との関係のなかで考えるという仕事が中心でした。でもコロナ禍もあって「それだけでいいのかな?」と、新しい関係を考えるというのは重要なテーマだと感じました。ウェビナーも、お祭りとしては大成功だったけど、それを定常的に発展させていくことはなかなかできない。我々だけでは絶対にできない。北谷公園の例もそうですが、日建設計として一生懸命やったけど、やはり運営のことは自分たちだけではできない。色々な人の力を借りて勉強させていただきながら、コラボレーションを広げていくことが必要だと考えています。

諏訪 : でもやっぱりエンジニアリングのところは日建設計さんにとても期待しているところです。地域の構造体を整理していかなくちゃいけないというときに、家一つ考えても上水道があって下水道があって、空気の流れはどうかとか、物理的なエンジニアリングはロフトワークではできない。ユニバーサルデザインなどについても、絶対に日建設計さんの方が知見を持っているだろうなと。

大松 : そこは補完する関係にありますよね。こちらもデジタル領域とかは分からないところが多い。街とか建物とか、インフラをどう実装していくか、何をすべきかという点は、日建設計に得意な人がたくさんいます。色んな得意分野を持った人々が関わるQ0を通して、「こういう暮らし方、こういう社会が素敵だな」と共感してくれる人をたくさん増やしたいですね。Q0の社員だけじゃなくて外部のパートナー的な人も含め、多くの「Q0出身者」が様々な地域で、それこそ日本だけじゃなく世界にも飛び出していって活躍しているような20年後が理想ですね。

林 : Q0は日本のなかで閉じる会社なのかモヤモヤしていたのですが、今日の話を聞いて、日本の地方で起こっている課題は世界中で生まれている潮流だから、日本のなかだけで閉じるものではない。むしろ、解決の糸口はみんなが求めていく価値観となりうる。だから20年後には、世界中にQ0の連携が広がっていると素敵ですね。

大松 : きっと20年後にはそうなっていると思います(笑)。

Q0 Letter

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