地球の一構成部位として、「いのちの循環」を持続させるために何ができる? Q0トークイベント Vol.6 レポート

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「地方と都市の“あいだ”」へと眼差しを向け、環境やサステナビリティをはじめとする社会の諸問題解決への糸口を探るQ0のトークイベントシリーズ。

2024年12月に開催されたQ0トークイベント Vol.6「継承される地域が、環境も再生できる未来」には、パーマカルチャーデザイナーの四井 真治さんが登壇。八ヶ岳のふもとで家族と暮らす四井さんの生活やこれまでの活動をご紹介いただき、持続可能な社会をデザインするための考え方を学びました。

執筆:吉澤 瑠美

ごみをごみにしない。自然界の循環システムを暮らしに取り入れる「生活実験」

砂漠の緑化や森林づくりなど、大学では緑化工学の研究に打ち込んでいた四井さん。就職後、都市型の開発プロジェクトや公共事業に携わる中で、過剰に資金を投入し森を「人為的に」作ることに疑問を抱き始めます。「自然の力を利用すれば、日本の土壌は放置しても自然に森になる」。当時の仕事のあり方に限界を感じた四井さんは、政府の政策転換や働いていた会社の業績悪化を機に、都市生活を離れ「パーマネント+アグリカルチャー+カルチャー=パーマカルチャー」という持続可能な社会デザインに取り組み始めました。

現在、四井さんが家族と暮らす山梨県北杜市の自宅は標高750m、八ヶ岳のふもとにあります。中古の民家を増築し、竹林だった場所を開墾して農業を中心とした暮らしを送っています。この地で四井さんが「生活実験」と称して目指すのは、単なる田舎暮らしではなく、持続可能な社会の最小単位としての家族を基盤にした、循環型の生活です。

「生命とは物質エネルギーを集め蓄えるものである」と四井さんは言います。私たちは生活を営むために、道具や食べ物、 材料など、さまざまな資源を集めます。そして目的にそぐわない皮や芯、端材をごみとして排出します。しかし、本来の自然界においてごみは存在しない、というのが四井さんの考え方です。なぜなら、ある生物が利用しないもの、排出したものも、他の生物が何らかの形で利用するからです。

四井さんの家では、自然界の循環システムにならって、ごみをごみとせず、他の生物が利用できる形に変える仕組みを多く取り入れています。それによって、一般家庭が消費する平均的なエネルギー量の約6割を削減できているといいます。

「いのちとは、形を変えて続くもの」ヤギのキュウちゃんが教えてくれたこと

農園では、堆肥を活用した有機農業によって、果樹や野菜など約60種類の作物が育てられています。栄養分の豊富な堆肥を十分に吸収した畑は、5年ほどで火山灰由来の白い土から黒々とした肥沃な土へと変わりました。この農園で育った野菜は、スーパーマーケットで見るものとは比べ物にならないような大きさに成長しています。

左から、1年目、2年目、3年目、4年目、5年目と変化する土

農作業をしていると、鎌や鍬が壊れることもあります。しかしそれもホームセンターで買い替えるのではなく、自分たちで修理して可能な限り使います。自宅で醤油を搾るためのふねも、古い道具を譲り受けて直したもの。そのため、四井さんの家には修理やものづくりをする作業小屋があります。今では珍しくなりましたが、昔はどこの家にもこのような作業場があったそうです。

また、敷地内では鶏やヤギを飼育しており、彼らもまた生活の一部として循環型の仕組みに組み込まれています。たとえば、鶏は堆肥小屋の中で暮らし、堆肥の上に糞をすることでその堆肥の栄養価を高めます。一方で、鶏自身も堆肥に湧いたウジ虫をつつくことで健康を保ちます。

四井さんは、ヤギの「キュウちゃん」に学んだエピソードを紹介しました。急性の疾患で亡くなったキュウちゃんを弔うにあたり、堆肥小屋に埋めることを選択した四井さん。キュウちゃんの体が自然に還り、土壌や植物、微生物の生命へと繋がっていく様子を目の当たりにし、四井さんは「いのちとは形を変えながら続いていくものなのだ」とあらためて実感したといいます。

現代社会において、今からでも持続可能な環境は作れるのか?

農業は自然の恵みを享受する営みと考えられていますが、皮肉にも、現代農業は環境破壊の一因であると言われています。過剰な耕作や農薬、化学肥料の乱用によって、土壌を劣化させる結果につながっているのです。適切な堆肥作りや自然エネルギーの利用、土壌微生物の活用により、農業は本来の目的である土を豊かにする行為に立ち返ることができると四井さんは主張します。

本来、自然界では1cmの土を作るのに100〜1000年かかるのに対し、私たち人間は30cmの作土層を1年で作ります。作物ができる土を作るということは土壌生物が棲める環境を作るということです。他の生物が暮らすことを視野に入れた仕組みが構築できれば、農業は環境破壊の原因から持続可能性の要になり得るでしょう。

さらに四井さんは、北杜市での暮らしだけでなく他地域での実践にも触れました。たとえば、微生物や水生植物が有機物を分解・吸収して水を浄化するバイオジオフィルター技術は2005年の愛知万博でも採用されたものです。もとは砂漠のように枯れた土地でしたが、土壌を改良することで、植物が育ち水が循環する美しいパーマカルチャーガーデンになりました。環境があるから循環するのではなく、循環が持続可能な環境を生み出すのだと感じさせられます。

「いのち」と「生命」の関係とは? ガイア理論に見るパーマカルチャーの核心

プレゼンテーションの中で四井さんが繰り返し強調したのは、「いのちとは続く仕組みである」という視点です。ラブロックは「地球は自己調節機能を持った一つの生命体である」とするガイア理論を提唱しましたが、四井さんは自身の生活実験から「地球は恒常性のあるいのちであり、地球環境の中に生まれた私たち生命は地球の一構成部位である」と理論を咀嚼します。

それはつまり、要素が絶え間なく更新されることで一種の秩序を生む「動的平衡」ということであり、混沌から秩序が生まれるという「散逸構造論」も、生物多様性が環境の循環を生んでいる地球環境とリンクします。「いのちの循環を理解し、その中で自分の生命、行動がどのように作用しているかを考えることがこれからの社会につながる」と結び、四井さんは聴衆に未来への希望を託しました。

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