教育・スポーツ・公共施設に見る、地域と共創空間のエンゲージメント Q0トークイベント Vol.8レポート

Event Report#イベントレポート

地方と都市の新たな関係性を軸に年2回開催してきたQ0のトークイベント。2025年12月10日に開催されたVol.8では「地域で創り紡ぐ、実験と共創の可能性」をテーマに掲げ、教育、スポーツ、公共施設とさまざまな分野の共創施設を紹介しました。今回は各施設の当事者が一堂に会したクロストークを中心に、「地域の豊かさをどう作るか」について三者の取り組みと思いを共有します。

執筆:吉澤 瑠美

自由な発想が交わることで研究が加速する「ComoNe」

松井創さんは、所属する株式会社ロフトワークのプロジェクトにおいて、100BANCHやSHIBUYA QWSなどさまざまな共創施設の立ち上げを支援してきました。そして2025年7月、東海国立大学機構が運営する共創の場として愛知県名古屋市に開館したのがComoNe(コモネ)です。国立大学の施設としては珍しく誰でも自由に出入りできる”開かれた”施設として、研究展示なども常設されています。

松井さんは、ComoNeを企画するにあたって「共創以前に、運営者も利用者も各々がやりたいことを存分にできるようにすることを重視した」と語ります。先日は、AIの研究者がプロトタイプを公開し、地域の子供たちが体験するというイベントが開催されました。AIと戯れる子供たちからは屈託のない感想が相次ぎ、「こんなフィードバックは受けたことがない」と研究者たちも刺激を受けているそう。まだ開業して半年足らずですが、すでに自由な発想の交わりが共創を生み出していると言えるでしょう。

市指定文化財を“泊まれる図書館”へ「SAKAKURA BASE」

建築設計事務所MARU。architectureを主宰する森田祥子さんは、日本を代表する建築家、坂倉準三が建築した三重県伊賀市の指定文化財である旧上野市庁舎を”泊まれる図書館” SAKAKURA BASEへと改修するプロジェクトに携わりました。公共施設としては異例の、ホテルと図書館の融合。地域産業に携わる人々からは歓迎された一方、図書館の改装に期待を寄せていた人々からは反発も大きかったといいます。そこで、森田さんらは賛成派も反対派も入り交じる形でワークショップを開催しました。このワークショップが参加者にとって多様な考えを知るきっかけとなり、プロジェクトへの理解と互いの意見が共存する設計につながりました。

2025年7月にホテルが先行開業し、今後図書館のリニューアルオープンが控えている状況ですが、すでにNHKなどメディアで取り上げられており、誇りに感じている市民も多いようです。当初は地域外の人が観光で利用するものと思われていましたが、実際は利用者の7割が建築関係者、3割が地域にゆかりのある方々だそうです。親戚が来た際に市民も一緒に泊まったり、地元を離れた人がわざわざ泊まりに来たり。森田さんがホテルの様子を見に行くと「テレビで見ました!」などと市民から話しかけられることもあるそうで、「地域の反対もあった中で喜びの声が聞けるのはうれしいこと」と顔をほころばせました。

地域を愛する人と熱量高く取り組む新スタジアム「IWAKI STADIUM LABO」

地域において新しい事業に取り組む場合、会議体の中心に自治体の首長を据えることが不文律のようになっています。J2リーグに属するプロサッカークラブ、いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブは、新スタジアムの建設計画においてファンや市民を中心にした分科会を組織しました。

代表取締役の大倉智さんは選手経験もあるサッカーのプロ。それでも「年齢や職業に関係なく、いわきを愛する人の意見を聞きたかった」とその意図を明かします。一般市民でも分科会のような形で関わりを持つと”我が事感”が増します。分科会は、さまざまなバックグラウンドを持つ人が積極的に意見を発する、熱量の高いコミュニティへと成長したそうです。

すべての地域住民を取りこぼさない事業は可能か?

地域における取り組みは、「本当に地域のためになるのか」という問いと向き合い続けることが不可欠です。33万人都市のいわき市においても同様で、すべての市民がサッカーファンというわけではありません。反対者は必ず出てくるものと理解したうえで、大倉さんはなお「スポーツチームを擁する市町村は全国で9%と言われている。スポーツチームがある街ということをうまく使ってほしい」と働きかけます。

また、新スタジアムを「IWAKI STADIUM LABO」と呼ぶことにもこだわりがあります。「スタジアムを価値創造の場にしたい。サッカーファンに限らず共感を持ってつながる場、勇気をもらう場であってほしい」と大倉さん。スタジアムという一般的な名称には留まらない、幅広い共創の可能性を「ラボ」という言葉に込めています。

ラボと名付けたことに共感すると強く頷くのは森田さん。彼女もまたSAKAKURA BASEを「図書館」とは呼びたくない、と語ります。図書館を利用するのは人口の2〜3割程度というのが一般的で、公共施設でありながら限られた人のための空間となっている実情があります。また、図書館には「真面目」「喋ってはいけない」というイメージがあるという人も少なくないでしょう。「名前を変えることでイメージが変わる。自分にも関係があるかも、と思ってもらえる」と名称を工夫することの意義を補足しました。

3人の対話を受けて、モデレーターの寺本修造(株式会社Q0)は「目的が限定的だと制約に変わってしまう。『自分にも居場所がある』と広く思ってもらえることが大切であり、皆さんはそれを実践している」と3人の共通点を挙げました。

地域と事業者の関係性を次世代へ継承していくために

旧上野市庁舎が竣工から60年以上経過しているように、建物は現在の運営者がこの世を去った後も残る可能性が高いと言えます。建設時に打ち立てたコンセプトや現在の活動を後世へと続けていくにはどうすればよいのでしょうか。

大倉さんはいわきFCの代表を務めていますが、いわき出身でもなければ現役時代にプレーしたわけでもありません。自分の故郷でもない地に自分をどう置くか、ということを考える際に「地球は先祖から引き継いだものではなく子孫から借りているもの」というアメリカ先住民の言葉を思い出すと語ります。次世代につないでいくことをいわきFCの重要なテーマの一つと捉え、地域の関係人口を増やすためのいち手段としてサッカーに取り組んでいると答えました。

松井さんは開業から5年間の運営に携わった100BANCHを例に挙げ、「成果は後からついてくると信じてなんとか運営してきた」と笑います。運営者としてできる限り入居者の活動を支え、地域社会との接続を促した結果、開業から現在に至る8年間だけでも社会に羽ばたき活躍するプロジェクトが多数誕生しました。「ComoNeも同様に、結果は後からついてくるはず」と松井さん。

実績を重ねることで地域での信頼も高まり、次のサイクルが生まれます。「学生や若者は未来そのもの。彼らのやりたいことを実現することが結果として地域の未来を作ることになっている」と松井さんは語りました。

森田さんは「私は建築家であり運営に携わっていないけれど」と前置きをしたうえで、SAKAKURA BASEのプロジェクトを「坂倉さんと対話しながら作っているような感覚だった」と振り返ります。50年、100年と時が経てばまた別の建築家がこの建物を改修する日が来るかもしれません。坂倉氏が建築し、MARU。が手を加えた建築に新しい歴史が付け加えられる。「そうやって使いながら更新していく建築を作ることが私たちの目標」と森田さんは目を輝かせました。

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