秋田における起業が果たす役割 「第5回ソウゾウの森会議」を開催

Projects#秋田#COI-NEXT#イベントレポート#ソウゾウの森会議

自分らしい生き方を想像し、秋田という風土のなかにおける暮らし方と働き方を創造する人々が集う場として2022年、「ソウゾウの森会議」がスタート。2022年11月に第1回目を行い、2023年5月20日には第5回目を迎えました。
今回は、谷口太郎さん(中小企業庁)から「秋田における起業が果たす役割」に関して、岩岡孝太郎さん(株式会社飛騨の森でクマは踊る)からは「林業と地域の両思い」に関して、それぞれ話題提供がありました。その後、副プロジェクトリーダーである林千晶さん(株式会社Q0)のコーディネートのもとでワールドカフェ※が設けられ、意見の共有や議論が進められました。

カフェにいるかのようにくつろぎながら、少人数に分かれたテーブルごとに対話するファシリテーションのひとつ。

ローカルの可能性の最大化が、日本の可能性の最大化に

中小企業の成長を支え、発展させるため様々な角度から支援を行っている中小企業庁。人口減少から起きる地方の労働需給についての問題提起と、中小企業庁が取り組む企業への支援施策について、谷口太郎さんが解説しました。

谷口:中小企業は、フットワークの軽さや意思決定の早さのメリットを活かしたイノベーションをより興しうる存在として、新たな仕事・面白い仕事を生み出すというローカルでより輝く存在として、日本に欠かせません。そして、中小企業庁は、今がんばっている企業の「成長」を支える政策と、「創業」を支える政策に取り組んでいます。

会議の目的は、秋田という固有の土地に暮らしながら、世界のどこにあっても普遍的に通じる意味性をもった仕事を生み出す人々が集う森のような場をつくること。100人の起業家精神を持った人々の生態系をつくり、そこから次の100人が自然発生するような仕掛けをつくっていくこと。そのひとつとして展開した「第4回ソウゾウの森会議」には、秋田県内外から「事業を創りたい人」と「事業を応援する人」が集いました。

谷口:日本経済の現状を見ると、生産年齢人口は、三大都市圏よりも地方圏でより減少しています。これは、地方から東京圏への転入超過数の増加が一因です。特に、リーマンショック以降の傾向として、転入超過数は男性よりも女性が上回っています。一方で、地方の有効求人倍率は、コロナ禍前後でも全都道府県で1を超えている状況であることから、「希望する職種が見つからない」「賃金等で待遇に見合う仕事が見つからない」といった需給のミスマッチが地方で生じている可能性がある、という問題意識を持っています。

地域の中堅・中小企業の成長を応援する経済産業政策には、次世代への事業承継や前向きな事業改革や各種創業支援など様々な内容があります。東北では、東北経済産業局が「NEXT TOHOKU MEETUP」と題して、次世代の東北づくりの担い手同士の交流機会を創出する取り組みやプラットフォームの構築も進めています。支援策等の情報は「経済産業省スタートアップ支援策一覧」「中小企業施策利用ガイドブック」としてWebサイトにまとめられていますので興味のある方はご覧ください。

林業と地域をマッチングし、サステイナブルな未来を創る

続いて登壇されたのは、岐阜県飛騨市を拠点に、木や森の価値を見直し地域の人たちとともに新たな発想でチャレンジを続けている、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)の岩岡孝太郎さんです。ヒダクマは、株式会社ロフトワーク、株式会社トビムシの民間2社と飛騨市が出資し、2015年に設立されました。

岩岡:飛騨市は森林率が93%という森ばかりのところで、その森もブナ、ナラ、クリなど広葉樹の多く、硬い広葉樹を原料にした多くの家具企業があることと、豊かな広葉樹の森で育まれた水で潤う豊かな地域です。
しかし、地域の広葉樹活用には大きな課題があります。かつて、地域の広葉樹を活かすことで成長した家具産地ですが、現状では家具に使用する量の98%は輸入材です。なぜなら今、飛騨の山から得られる広葉樹丸太は細く、あるいは、太くても曲がっており家具用に安定して使いにくいためです。
家具に使われない丸太は、パルプ原料やシイタケ菌床用のチップや薪に使われていますが、決して価格は高くありません。森を管理しない→丸太の質が下がる→儲からないから切らない→森林を管理しない・・・、という負の連鎖で林業が成り立たなくなっています。

私たちは、細かったり、曲がっていたり、少量しかない多くの樹種であったりという未利用木材に新たな活用や魅力を生み出すことで、林業と地域のサステイナブルな未来を創ること、林業と地域産業をマッチングすることに取り組んでいます。

岩岡;初めに、地域内・間の交流と地域資源の活用に取り組むまちなかの拠点として、カフェと宿泊、木工、デジタルファブリケーション※を組み合わせた“FabCafe Hida”をつくりました。

※CGデータや図面などのデジタルデータを元にモノをつくること。3Dプリンターやレーザーカッターなどの工作機械を使えば、自分に加工技術がなくても実際にモノを手にすることができる。

そして、自身が建築設計に携わってきた過程で、実際に森を見ていなかったことに気付いたため、木を多く扱う建築家と飛騨の森を一緒に歩くことにしました。建築家の方々は、曲がり木などを目の当たりにして、一本一本を使いこなすことを考えてくれるようになり、多種多様な木材を活かした店舗空間や木工品の展開につながっています。
私たちが大切にしていることは、地域の人たちと一緒に取り組むことです。一緒に取り組むことで、林業を変えていこう、イノベーションを起こそうという意識が共有され、ヒダクマの設立から5年後、2020年に官民合同で「広葉樹活用推進コンソーシアム」を設立しました。地域に無かった広葉樹乾燥技術の新規開発や、「飛騨市広葉樹天然生林の施業に関する基本方針」の公表などの成果が挙げられます。地域産広葉樹の家具用材利用率は、ヒダクマ設立時の5%(2015年)から19%(2021年)まで伸びています。これからは、この数字を伸ばすだけでなく、地域が活性化することでさらに新しい人が加われるような取り組みをがんばっていこうと思います。

秋田がロールモデルとなり、日本全国の地方へ

「企業と地域共創と秋田への思い」と題して、ワールドカフェが催されました。それぞれのテーブルに分かれた8名のサポーターのもとに、県内の大学生や若手事業者、大学研究者や行政関係者などの参加者が集います。1回目と2回目でテーブルを変え、25分ほどのセッションが2回行われました。

秋田にある価値をどのように起業へ繋げていき、可能性を切り拓くのか、様々な議論が行われました。ワールドカフェを終えた後、サポーターの皆さんからいただいた感想を紹介します。

  • 秋田だからこそ、起業やスタートアップで更に目立つことができる。人の少ない地域ならではメリットだと感じた。挑戦が報われやすいという励みになる。
  • 県外出身で大学を秋田で学び、今年から地域おこし協力隊として社会人として地域と接し始めたばかりだが、秋田に住んでいる方々、学生の皆さんがここまで秋田のことを考えているんだ、ということに接することができて心強く感じた。
  • 秋田が都会に比べて無いものが多いということは、フロンティアが多いことと同じである。起業家を先行する経営者が支える仕組みがよい循環を生み出していることは、秋田だけでなく地方全体で起きている現象で、それらの動きを応援したい。
  • 起業のノウハウや創業支援政策は地域の商工会議所の方々との交流、中小機構の「経営のヒント」というサイトなど、様々なところで得られるのでぜひ参考にしていただきたい。
  • 巷にある起業のノウハウやイエス・ノーは玉石混交で判断できないので、秋田をベースに起業や経営のハウツーまとめることが出来たら、日本全国の地方にも波及できるはず。今回の出会いをきっかけに、次に楽しくつながることを期待しています。
第5回ソウゾウの森会議 開催概要
  • テーマ
    • 秋田における起業が果たす役割
  • 開催日時
    • 2023年5月20日(土)13:00-15:30
  • 開催場所
    • (第一部)秋田市文化創造館 1Fコミュニティスペース
    • (第二部)秋田市・にぎわい交流館au 2F アート工房
  • ファシリテーター
    • 林 千晶(株式会社Q0 代表取締役社長)
  • ゲストスピーカー
    • 谷口 太郎(中小企業庁 事業環境部企画課)
    • 岩岡 孝太郎(株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役)
  • ワールドカフェ・サポーター
    • 滝澤 祐馬(中小企業庁 長官官房総務課)
    • 藤澤 槙吾(中小企業庁 長官官房総務課)
    • 野坂 亮太朗(中小企業庁 創業・新事業促進課)
    • 桑島 大地(東北経済産業局 産業部中小企業課)
    • 小林 将隆(東北経済産業局 地域経済部起業成長支援課)
    • 高田 克彦(秋田県立大学木材高度加工研究所)
  • 主催
    • COI-NEXT「技術x教養xデザインで拓く森林資源活用による次世代に向けた価値創造共創拠点」
    • 代表機関:秋田県立大学
    • 幹事機関:国際教養大学、秋田公立美術大学、株式会社Q0

Q0 Letter

Q0のニュース・イベント情報を配信するメールマガジンです。全国津々浦々で動くプロジェクトの進捗状況や、リサーチでの発見など、Q0の今をお届けします。