「秋田と東京、そして全国との出会いから」
事業を創りたい人、事業を応援する人が集った第4回ソウゾウの森会議

Projects#秋田#COI-NEXT#イベントレポート#ソウゾウの森会議

自分らしい生き方を想像し、秋田という風土のなかにおける暮らし方と働き方を創造する人々が集う場として2022年、「ソウゾウの森会議」がスタート。2022年11月に第1回目を行い、2023年2月18日には第4回目を迎えました。今回のテーマは、「秋田と東京、そして全国との出会いから」。副プロジェクトリーダーである林千晶氏(株式会社Q0代表取締役社長)による、「事業を創りたい人」と「事業を応援する人」が集う“ワールドカフェ”※が展開しました。

カフェにいるかのようにくつろぎながら、少人数に分かれたテーブルごとに対話するファシリテーションのひとつ。

文:高橋ともみ

地方と都市の新たな関係性をつくる

自分らしい生き方を想像し、秋田という風土における暮らし方と働き方を創造する人々が集う場としてスタートした「ソウゾウの森会議」は、秋田県内三大学(秋田県立大学・秋田公立美術大学・国際教養大学)と株式会社Q0の連携チームが、国立研究開発法人科学技術振興機構から2年間の支援を受けて実施する地域共創拠点形成プロジェクトです。その後審査を経て2024年から10年間の事業へと移行する見込みで、今後、長期的に秋田らしい人材育成プログラムの運営に取り組んでいく予定です。

会議の目的は、秋田という固有の土地に暮らしながら、世界のどこにあっても普遍的に通じる意味性をもった仕事を生み出す人々が集う森のような場をつくること。100人の起業家精神を持った人々の生態系をつくり、そこから次の100人が自然発生するような仕掛けをつくっていくこと。そのひとつとして展開した「第4回ソウゾウの森会議」には、秋田県内外から「事業を創りたい人」と「事業を応援する人」が集いました。

動脈と静脈が新しい循環を生む仕組みに

なぜ地方なのか、地方でどのような未来を描いていくのかーー。まずは「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的に発足した株式会社Q0と、Q0が地方で描く未来について、代表取締役社長の林氏が解説しました。

林:株式会社Q0は、株式会社ハチハチ、株式会社日建設計、株式会社ロフトワーク、この3社によって2022年に設立されました。企業目的は「地方と都市の新たな関係性をつくる」こと。地方で持続可能な新しい事業をつくることにフォーカスしていくことを基本として、地方と都市との新しい関係を構築していこうと動いています。

「Q」はクエスチョンで、どういう意味だろうかと常に問いただすこと。「0」はゼロエネルギーのこと。今後、エネルギーは自分たちでどうつくっていくか、これは地球にとっていいことなのか必ず問いただす時代になると思います。これからはどういうふうに生きていきたいかを、自分たちでつくる時代。なかでも日本の最先端の動きが出てくるのが地方なので、日本の未来をここからつくりたいと思っています。私たちの事業ではこれまで日本の動脈的な都市部で事業を行ってきましたが、Q0では日本の静脈といわれるような秋田、富山、佐賀で取り組んでいる事業を応援して、動脈と静脈とが新しい循環を生み出せたらいいなと考えています。

登壇者林千晶2

林氏はこの後、大学の研究開発を活かして地域課題を解決していくプロジェクト「COI-NEXT」、国際教養大学のグランドデザインへの取り組みや畜産業への支援、佐賀県で行っている小水力発電についての取り組みを紹介。「未来を想像したときに、未来にこんなものが増えていたらいいなと思う、そういう事業に取り組んでいきたい」と語りました。そして、ワールドカフェへと移行します。ワールドカフェとは、カフェにいるかのようにくつろぎながら、少人数に分かれたテーブルごとに対話するファシリテーションのひとつ。一定の時間が経過したら、テーブルのメンバーを入れ替えて新たなメンバーで対話することを繰り返していく手法です。

林:第3回までの「ソウゾウの森会議」では、本プロジェクトが地方で何をしていくかを説明したのですが、今回は、みんなが実際どんなことをやろうとしているのかをぜひ聞かせてほしいと思い、インタラクティブなセッションを企画しました。秋田をこれから面白くする人たちによるプレゼンと、それをサポートしたいと思っている人たちによるプレゼンのあと、皆さんと交流するワールドカフェに移ります。最後には、ワールドカフェによってどういう発見あったのか、どういう繋がりがあったのか発表してもらえたらと思います。

可能性をどう切り拓いていくのか

「秋田と東京、そして全国との出会いから」と題したワールドカフェはプレゼンテーションから始まりました。秋田で暮らし、ここで事業を創る人、それを応援する人によるひとり約1分のプレゼンでは、自分たちの可能性をどのように切り拓いていくのか、進めていくのかを模索する姿がありました。

参加者写真1

「事業を創りたい人」として登壇したのは、秋田で映像会社を起業し、プロデューサーとして活躍する栗原エミルさん推薦による若手11人です。ギャップイヤー※に外国人からさまざまな意見を取材している高校生、にかほ市の地域おこし協力隊や男鹿市でハンバーガーの移動販売を起業した人、フェアトレードのコーヒーをもっと楽しく美味しくしたい人、雑草料理人を目指す人、和牛の飼育をして新たな展開を目指す人などが自己紹介をしながら、創りたい事業について語りました。

※大学入学前や在学中にさまざまな社会活動を経験するための猶予期間。

それぞれがプレゼンする姿を見つめたのは、秋田県内外で活躍する「事業を応援する人」。入江洋氏(JR東日本 技術イノベーション推進本部データストラテジー部門次長)、奥真由美氏(プライムスクール代表キャリア教育コーディネーター)、奥森清喜氏(株式会社日建設計取締役常務)、工藤尚悟氏(国際教養大学准教授)、谷川じゅんじ氏(JTQ株式会社代表、スペースコンポーザー)、寺本修造氏(ロフトワーク リードディレクター)、永谷亜矢子氏(株式会社an代表取締役、プロデューサー)、本田勝之助氏(本田屋本店四代目代表取締役)、武藤里美氏(JR東日本 技術イノベーション推進本部)、横瀬元彦氏(株式会社日建設計)、そして林氏を加えた11人です。

登壇者一覧1

秋田はぐんぐんよくなっている。巻き込みながら、まち全体が幸せになる動きを

ワールドカフェでは、まちづくりや起業、ブランディング、地方創生、教育など百戦錬磨の経験と知見のある「応援する人」それぞれのテーブルに参加者が集います。1回目と2回目でテーブルを変え、20分ほどのセッションを2回行いました。

秋田にある価値をどう活かしていくか、どのように動けば物事は動いていくのか。仕事は「生きるため」からさらに意味性を求められる時代となったいま、新しい意味を持った仕事を秋田で生み出していくにはどうしたいいのかーー。「応援する人」のテーブルでは、耳を傾けながらも若手がそれぞれの思いを語る場面が多く見られました。ワールドカフェを終えた後、「応援する人」から感想をいただきました。

奥森:秋田には価値があり、動きがあり、課題もある。ただ「価値はたくさんあるが、物事が詰まってしまって動けない」という意見がありました。すぐには動かない、動かせないものをどうやったら動かせるようになるのか。それに対して私のほうからは、外にいるイノベーターや中にいるイノベーターの役割を持ったような人がこういう場で会話し、進めて、動かせるかたちに持っていくことが重要なのではと話しました。

奥森さん

林:私のテーブルでもそのような話がありました。秋田はぐんぐんよくなっている体感はあるけれど、もっとよい方向に動けるはずなのに動けない、と。それには、外から来た人と交わったり、自分が外に出て経験をしてまた戻ってきてみたりなどが大事だよねという話をしました。

永谷:どう売ったらいいか分からない、という意見がありました。どうやったらお金を払ってもらえるようになるのだろうか、に対しては、この短い時間では解決はしなかったのですが、私から伝えたのは「逆算していく」ことです。どういう人たちに何を体験してもらうために、どうプロモーションしていくのかを考えること。そこに丁寧に取り組んでいくことが大切なのだろうなと思います。

永谷さん

武藤:若手の皆さんからは、すごく真剣に、地域のことを考えている様子が伝わってきました。ただ、本当は「みんなでやろうよ」なのに、「みんなで我慢しようよ」となってしまうことが多い、と聞きました。いいところがいっぱいあると言いながらも、それをどう活かしたらいいのか一歩進んだ議論に進みづらいという印象がありました。そして、新しい風が吹きつつも、若者だけではなく昔から住む人たちとどう関わり、巻き込みながら進めていくのか。巻き込むことは難しいけれど、まち全体が幸せにならないといけないと感じています。

武藤さん

工藤:テーブルで話していて思ったのは、「秋田ってこうだよね」とまとめてしまうと思考停止に陥ってしまうということ。秋田ってこうだと決めてしまうと、そうではない人や物事を排除してしまう。そして「秋田で何かしたい」というときの「秋田で」。僕が知っている、面白い動きをしている人たちはここでやっていることを他の場所に持っていっても面白い人たちです。「秋田で」と言った瞬間に少し面白くなくなるので、ここにいてもいいし、どこに行ってもいいという流動性を認めてあげたいですね。

工藤さん

たくさんのエッセンスを混じり合わせ、自分にしかできないことを

経験と知見のある「応援する人」とのセッションによって、見えてきたものはあるのでしょうか。国際教養大学4年の稲川拓実さんは、捨てられたり放置されたりが常の菌床椎茸を発酵させることで、緩衝材や建材にする試みをしています。「活躍されている経営者や、社会をリードしていっている人たちと話すことで次の展開を見据えたい」と話します。岡山県出身で同じく国際教養大学1年の畠山りいなさんは、「経験豊かな方々と直接お話できる機会がうれしい」と話します。畠山さんが注目しているのは、サスティナブルファッションです。「ソウゾウの森会議には第1回目にも参加していて、ファッションの仕事をして古着のよさをどう伝えていったらいいだろうかと考えています。きょう心に突き刺さったのは、観光についてです。秋田に来てから写真ばかり撮っている自分に気がついて、ツアーを組んで留学生などを案内することをひらめいて。経験豊かな方々から直接お話を聞いて交流することで、たくさんのエッセンスが自分のなかで混じり合って、自分にしかできないことをする糧にしたいです」。

「第4回ソウゾウの森会議」で展開した「事業を創りたい人」と「事業を応援する人」によるワールドカフェ。それは若手だけでなく応援する人にとっても、可能性をどのように切り拓き、どのように進めていくのかにあらためて向き合った時間となりました。

集合写真

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