北海道の食のインフラを担うコープさっぽろを訪ね、社会性と経済性を両立するカギを紐解く。Q0メンバーシップツアー2024

Research#北海道

地域で先進的な取り組みを行う企業や創造的なリーダーを訪ね、「継承される地域」をデザインするためのプロセスやアイデアを議論する、Q0メンバーシップツアー。2024年6月は、北海道全域で事業を展開する生活協同組合コープさっぽろ(以下、コープさっぽろ)を訪ねました。

コープさっぽろは、過疎化や少子高齢化が全国平均を上回るペースで進行する北海道において、地域の課題解決に直結する事業を次々に展開しながら、成長を続ける組織です。今回のツアーでは、コープさっぽろの様々な事業の現場を訪ね、縮小する地域社会においてどのように社会性と経済性を両立する事業を運営しているのかを紐解きました。

ツアーでは、コープさっぽろ常務理事の鈴木裕子さん、執行役員の緒方恵美さんにご同行いただき、事業の特徴や背景にある思いを解説していただきました。

執筆:高野 優海

コープさっぽろは、北海道民の課題解決プラットフォーム

コープさっぽろは、食材や日用品の店舗事業・宅配事業を基盤にしつつ、買い物困難者向けの移動販売車の運行、学校給食が提供できない過疎地域での「スクールランチ」の提供、資源リサイクルの利益を活用した子育て支援の実施など、地域住民の課題解決に寄与する事業を次々に展開しています。

一方で事業高は年間約3200億円にのぼり、北海道の小売業界でイオン北海道とトップを争うなど、業績の面でも大きな存在感を放っています。

こうした社会性と経済性の両立を支える大きなカギが、「生活協同組合という組織形態」「事業の先進性」です。

生活協同組合(以下、生協)は、消費者が組合員となって出資金を出し合い、自ら運営・利用する組織です。株式会社は顧客、従業員、株主…とステークホルダーが分かれている一方で、生協は顧客、従業員、出資者がすべて組合員であるため、利益の追求ではなく、組合員の課題解決に重きを置いた事業が展開できる特徴があります。

また、日本の小売業界の常識を破って物流を完全自前化し、Amazonにも負けない独自の物流体制を構築しているほか、元メルカリCIOの長谷川秀樹氏をCIOとして迎え、組織や事業のDXを進めるなど、2007年から理事長に就任した大見英明氏のリーダーシップのもと、先進的な事業推進を行っています。

その結果、組合員数は2023年10月に200万人を突破。1世帯につき1名が組合に加入していると仮定すると、北海道の総世帯の約8割が加入している計算になります(※令和2年国勢調査結果をもとに算出)。

加えて、スーパーの撤退が進む過疎地域を含めて全道に109の店舗を有し、離島を含む47万世帯に毎週宅配を行い、移動販売車や夕食宅配をはじめ、エネルギー・保険・葬儀・旅行など、暮らしを支える様々なサービスを展開する。まさに北海道の生活インフラと呼べる存在です。

執行役員組織本部長 緒方さんによる事業紹介の様子

行政事業の補完まで役割を広げる、スクールランチ事業

社会性と経済性を両立する象徴的な事業としてQ0が特に注目しているのが、行政主体の給食提供が困難な学校に温かい昼食を届ける「スクールランチ」事業です。今回のツアーでは、コープさっぽろがスクールランチを提供する様似町(さまにちょう)の小学校を訪ね、見学と実食を行いました。

様似町のスクールランチはコープさっぽろの帯広工場で調理され、保温・保冷された状態で約2時間かけて届けられます。高齢者向け配食サービスの調理を行う工場を活用することで低投資・高稼働率を実現し、一食あたりにかかる費用は、公的な学校給食施設の一般的なコストの約1/2に抑えられているそうです。こうした効率的な事業運営により、採算が取れないイメージのある行政事業でも収益化を実現しています。

この日のメニューは、ほっけ海苔塩から揚げ、大根とツナのサラダ、豚汁、様似町産「アポイ米」のご飯でした。スクールランチを食べた参加者は、「驚くほど美味しい」「出汁がしっかり効いていて、手作り感がある」と口々に絶賛しました。

コープさっぽろの強みは、地元生産者との強固なつながりがあり、新鮮な食材を安価で入手できることです。昨今は給食でも輸入品や冷凍品の使用が増えていますが、コープさっぽろは道内産の旬の食材を使うことにこだわり、出汁も顆粒ではなく地元産の昆布から取るなど、「本物の味」を大切にしています。

生徒たちにスクールランチの感想を聞くと「お弁当よりも温かいし、おかわりできるのがいい」「お母さんが楽になったと言っていた」「お弁当では冷凍食品も多かったけど、スクールランチは手の込んだ料理が出てくるから嬉しい」といった声が挙がりました。

学校の先生も「家庭では食べないメニューや食材に触れる機会になり、子どもたちの食の幅が広がっていると思います」と、その価値を感じています。

現在コープさっぽろがスクールランチを提供するのは3町村ですが、これまで道内30以上の自治体から問い合わせが来ているそうです。人口減少とともに税収が減り、自治体にできることが限られていく中で、民間が行政事業の補完的な役割を担う時代に入りつつあることがうかがえました。

買い物という"体験"を届け、幸福度にも寄与する移動販売事業

事業を通じて社会課題を解決しているもう一つの好例が、移動販売事業です。

高齢化や地元小売店の廃業・撤退により年々増加する買い物困難者への支援策として、コープさっぽろでは2010年から移動販売事業を開始し、現在は138市町村で96台の移動販売車を運行しています。

宅配だけでなく移動販売も行うのは、商品を手に取る、店員と話すといった買い物の楽しさを届けるためです。実際、利用者からは「商品を見るだけでも楽しい」「移動販売車が来た時だけ人と会って喋るので、毎週楽しみにしている」という声が寄せられているそうです。

実際に運行している移動販売車を見学した際、ツアー参加者から挙がったのは車内の広さと品揃えの良さに対する驚きの声でした。

車両は2トン車で、内部には大型の冷蔵庫と冷凍庫が備えられ、約1,000品目の商品が積まれています。毎朝店舗から商品を積むため新鮮な食品が揃い、卵や牛乳はもちろん、お刺身まで購入可能です。余った商品は店舗に戻して売り切るためロスがなく、社会貢献事業でありながら黒字で運営ができているそうです。

2022年からは、全国で初めてATMを搭載した車両の運行も開始。金融機関の支店やATMの撤退が各地で進むなか、地域の金融インフラの維持にも寄与しています。

DXを徹底し、大きな競争優位性を築く物流センター

ツアーでは、コープさっぽろの大きな強みとなっている物流センターの内部も見学しました。

物流センターでは、2万5000種類もの商品が毎日仕分けされ、全道109の店舗・51の物流拠点に配送されています。その圧倒的な処理量と速度を実現しているのが、「オートストア」や「キャリロ」といった最先端ロボットの活用と、作業のDXです。

「オートストア」は、ロボットが自動で商品をピッキングするシステムで、従業員が棚にある商品を探して歩き回る必要がなく、省スペースで多様な商品の保管を可能にしています。導入後は使用スペースはそのままに、取扱品目数は約4倍に拡大、生産性は1.8倍向上したそうです。「キャリロ」は作業スタッフや親機の後ろを自動走行するロボットで、より少ない人数で多くの荷物の搬送を可能にしています。

また、クラウド型システムで伝票運用や関係者間での情報連携を効率化することで、物流業界の大きな課題だったトラックの待機時間を半減させることにも成功したそうです。その結果、物流業界で3冠とも言われる「日本ロジスティックス大賞」「物流環境大賞」「物流パートナーシップ優良事業者表彰」を次々に受賞し、全国的にも大きな注目を集めています。

物流センター内で稼働する「オートストア」の様子(写真提供:コープさっぽろ)

気づきをアイデアに変え、地域の持続可能な未来をデザインする

その他、昨年オープンした新店舗や、各家庭への配送を行う宅配センター、店舗や宅配センターの一部を地域に無料解放しているフリースペース「トドックステーション」などを見学した後、ツアーの最後には参加者同士でワークショップを行い、ツアーで得た気づきや今後に向けたアイデアについて議論を行いました。

「地域の課題は、一つの市町村だけで解決しようとせず、より大きな単位で解決を図ることが重要だと感じた」「DXで効率化する部分と、人同士のウェットな交流を大切にするアナログな部分とのバランスをうまく取っていることが示唆深かった」といった気づきが共有されたほか、コープさっぽろとの協業アイデアや、コープさっぽろの事業から着想を得たアイデアの種が数多く生まれました。

コープさっぽろが向き合っている課題は、日本全体が直面し、深刻化しようとしている課題でもあります。そうした課題にいち早く取り組み、独自の解を導き出しているコープさっぽろは、日本の希望とも呼べる存在であり、他の地域のヒントとなる貴重な知見の宝庫でした。

今回のツアーで得られた知見や参加者との交流をもとに、コープさっぽろとのコラボレーションも視野に入れながら、Q0は今後も地域の持続可能な未来を目指したプロジェクトを推進してまいります。

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